風に舞いあがる…

風に舞いあがるビニールシート by 森 絵都 (文藝春秋 2006/5) ★★★★★
風に舞いあがるビニールシート
森絵都の心境地、6篇の短編集。 きまぐれな上司に振り回されながら仕事と恋の間に揺れ動く社長秘書。(『器をさがして』より)   仏像への思い入れの為に、仏像修復の現場で上司とぶつかってしまう修復師。(『鐘の音』より)

なんだか 森絵都の作品と私はシンクロしてしまうらしいのです。 6つの短編の、6つの別々の主人公がそれぞれ 大切なものを守り ひたむきに生きるその姿勢に引っぱられてしまう、というか。 その描写が巧みなせいか、鮮明な人物像が目の前に現れて、まるで既知の人物であるかに感じられます。


そして、表題作の「風に舞い上がるビニールシート」。 主人公が職場で出会う恋愛話かと思ったら、読み進めていくうちに 社会問題の最前線で生きる人間の姿に焦点が移っていきます。 著書がこれを書くために費やした取材力がひしひしと伝わってきて、ただ楽しく読むだけでは終わらなく、何かをこころに残してくれます。 そんな本です。


物語の登場人物も懸命に生きているけれど、森自身が ひたむきに書き進んでいる作家なのだと、再認識。 児童文学からスタートし、新境地である大人向けの初の短編集で、社会派ともいえるテーマも含めて成功している。 彼女の次の作品が楽しみです。