12人の怒れる男(ロシア) ★★★★ 

12人の怒れる男 [DVD]ロシア版リメイクです。
ヘンリーフォード主演のアメリカ版原作「十二人の怒れる男(1957)」にかなり忠実に作っています。 年末に初めて見た時は「ただのリメイクか〜オリジナルの方がいいな」と思ったのですが、他の映画を見たりしているうちに新しい発見をしまして、ちょっと語ります。
是非、オリジナルと見比べてください。


日本版(コメディ)では殺人事件が全く違う内容でしたが、このロシア版リメイクでは、事件の内容も原作と同じです。「原作に忠実に作った」といえばそれまでですが、わざと同じ事件にしたんです、絶対。そして、どこが違うのかということを視聴者に探させて考えさせる、というのがきっと監督の作戦。
審議の展開も途中までは似ています。弁護人が本気で少年を弁護しなかったと陪審員が審議中に気付き、証言の不確かさを問いただしていく筋道も同じ。


原作では、その証言内容に不確実性をみつけていく審議の展開の巧みさが見どころ。
ロシア版リメイクでも、本筋は同じなのですが、原作のように最後まで徹底的に審議の展開が中心に置かれるのではなく、途中から陪審員本人たちの身の上話、その経験からくる人生観などの描写に比重が移っていきます。果たして審議はどうなるかという主軸からは若干ぶれる感もあるのですが、ロシア版では審議の展開だけが見どころなのではなく、陪審員に自らの人生を語らせ、ロシアの現実の問題を語らせ、その社会問題を浮き彫りにしていくことが一つの目的なんだろうと。そして語り部である陪審員たちの言葉の端々に、過去20年のロシアの激動時代を翻弄されながら生きた人々の人生がみえてくるのです。つまり、ちゃんと、今のロシア人にしか作れないオリジナルな映画になっている。それをわざわざ1957年のアメリカ映画に当てはめて作ったという意味で、ロシア国内で話題になると同時に、全世界への話題として投げてだしているのです。
たとえば弱者が強者の犠牲になる資本主義社会の問題は、ロシアにとっては新しい問題なのです。でも、アメリカには昔からあったよね、それは今も解決されずにそのままだよね。そう言ってるわけなんです。まったく勇気のある監督です。
そして、原作とは違うエンディングの部分に、監督のメッセージを感じました。




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ロシア版は独特な雰囲気があります。 両方見るなら、原作から見る方がいいかも。
原作は、脚本も、ヘンリー・フォードの演技も素晴らしい。
12人の優しい日本人」はコメディ。とりあえず楽しめます。