ぼくたちの砦


ぼくたちの砦 -- A Little Piece of Ground
エリザベス・レアード

読書感想文コンクールの課題図書を読んでみた。
今年の高等学校の部の課題図書の一冊だ。

イスラエルの占領下で暮らす パレスチナの少年たちの生活を描いた作品。
現代の戦争もの。そう、課題図書には、必ずといってよいほど戦争をテーマにしたものが含まれている。自分が子供の頃はどう感想を書いていいか本当に困ったものだった。 貧しく苦しい時代、団結して日本国のためにと信じて生き抜いた人々の強さや、広島、長崎の原爆をテーマにした重いもの。 あの頃の自分には、過去の戦争体験の話を「読まされても」、古臭い日本の教訓の繰り返す大人の声を 聞いているだけに感じられた。

これは、今 現在 地球の裏側で起こっている現実だ。宗教と国力と民族紛争が絡み合い、平和な歴史が殆んどないパレスチナ。 しかし、この占領下の街で 暮らす一少年とその家族の話は、悲惨で希望もないものではなく、少年の家族や友人との日常を淡々と書いたものであった。 そう、「淡々としすぎていて」 平和ボケの日本の青少年に、この小説の舞台の本当の悲惨さがどのくらい分かるのか?と少々不安になるくらいに。 涙を流すクライマックスもないが、その一方で、「銃撃」、「戦車」、「捕虜」 等の言葉が普通に使われている。 この裏で失われている命や、暴力に傷ついた人や、自由を奪われた人々の悲しみと苦悩を行間に読み落しそうになる。 圧倒的な力で支配される理不尽さの中に生きているのに、 この少年の生命力あふれる明るさには、卑屈さが感じられず強さが印象に残る。 人類に希望があるならば、人の心の中にあるのだろうか。

読後感としては、中学校の課題図書の間違いじゃないの?と思う読み易さだったが、高校生じゃないと、この作品の行間は読めないと判断したのだろうか。

宗教の自由、思想の自由は、長い時間をかけて 国際的に認められてきているような気がする。 しかし、宗教や思想の違いでの殺し合いは続いている。 宗教を利用して国力や富を争うことは もういい加減に止めてもらいたい。 国際的平和が地球規模の利益になるということが何故分からないのだろうか。 それは同時多発テロで標的となったアメリカが、第三世界の国々から政治的に得てきた様な 一方的な利益ではない。 平和は国際的相互利益そのもののはずだ。 その事を今の子供たちには理解してもらいたい。 そういう教育をこれからの教育者にはしてもらいたいと思う。勇気を持って。