デンゼル・ワシントン

僕が大切にしている人生の知恵を君に伝えよう
僕が大切にしている人生の知恵を君に伝えよう (青志社 2007/11)

デンゼル・ワシントンが手がけた初めての本。 青少年を正しく導く為の、熱いメッセージをまとめた内容である。 彼らしい。 彼のまっすぐな情熱と供に、子供たちへの愛情があふれている。 子供や若者だけでなく、子供を育てたり、後輩を導く立場にいる我々大人が読んでも心に響くメッセージが多い。 翻訳もよみやすく 好感が持てる日本語に仕上がっている。
(小学5・6年生以上)


非常にアメリカ的な本である。 敢えて書くが、この本を大人に読んでもらいたい。プロ・スポーツ選手から、政治家、弁護士、医者、企業家までさまざまな分野で活躍した43人からのメッセージを読むにつれて、根底に流れるデンゼルのメッセージが伝わってくる。 自分達が強く生きることで 次の世代を導いていこうというメッセージ。 デンゼルだけでなく、心あるアメリカ人が共有するハートを感じることができる。 「自分の夢が叶ったら、少し余裕ができたら、人助けをしよう。 社会に恩返しをしよう」 クリスチャン精神と取り違えてはならない。 この「Reach the less fortunate. Protect children and lead them for the better」 という考え方は、常にマイノリティーが存在し、格差も差別も犯罪もある複雑なアメリカの社会の中で 長年 培われてきた社会的正義の実践である。 大袈裟なことではなく、誰にでもできること、毎朝 子供たちに「気持ちよい挨拶の仕方」を教えること、そんなことから始まる。 精神的に不安定で傷つきやすい子供たちが、希望を持ち、自分の可能性を信じ続けられる力は信仰から生まれるものではなく、常にその子を愛情を持って接した恩師や友達、または家族によってもたらされるものであることをデンゼルはここに証明している。


一人の子供が「やけ」になったり絶望したりするのは、未成熟で余裕のない一人の大人の不用意な言葉であったりする。 その一方で、一人の子供が 希望を持ち、自分の可能性をまっすぐに信じて生きていくことができるのも、きっと一人の大人のせいだ。 意思と情熱を信じて、愛情を持って 目の前の子供に接することができた一人の大人のせいだろう。
私たちは 今の社会の中で、そんな大人であるだろうか。 毎日持てるベストで、誠意と愛情を持って社会と付き合っているだろうか。 今日の大人の言動と行動にこそ 明日の社会の行く末が託されているのである。そう思うと身が引き締まる思いがする。 一人一人の大人が それぞれの場所で毅然と頑張る、そんな風に「日本の良心」も育てていきたい。